当コラムはURBAN RESEARCH MEDIAにて掲載された内容です。
文中に登場する作品
インターネット上には一般的に便利だと言われていても、ちょっと立ち止まって考えてみると、果たして本当にそんなに便利なもんだろうか?と思う機能が数多く存在する。
たとえばLINEの既読機能。
東日本大震災がきっかけで安否確認のために実装された、なんて言われると「すいません、もう文句は言いません。素晴らしい機能です。」としか返しようがないが、こちらがLINEを開いた瞬間に相手に既読マークが表示されているかと思うと「メッセージを開封したことを伝えましたよ。」ではなく「ほら、こっちのターンですよ。先方は返信を待ってますよ。」とせっつかれているような気さえしてくる。そもそも相手の発言を無視して勝手に次の話題にいったのならともかく、既読の状態で何も返さないのは「既読スルー」ではなく「返信熟考中」なだけだ、と世の中に訴えたい。
たとえばTwitterにどんどん追加される通知機能。
自分宛の返信やRT、“いいね”はともかく、友人が知らない誰かをフォローしたことが通知されたり、知人が“いいね”した内容がタイムラインに流れてきたり。これはもはや一般的にも便利だと思われてない謎機能な気もするが、まあでもTwitter社は何か思惑があって搭載したのだろう。
このようにサービス側がよかれと思って実装しているはずが、一部、あるいは大半のユーザーには不評な機能、きっとあなたにもいくつか思い当たるだろう。
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その中でも僕が最も不要だな、と思っている機能がある。それは
「you might also like」
(あなたはこれも好きかもしれません。)
というメッセージと共に表示されるもの。要するにオススメ機能だ。Amazonでいえば「Customers who viewed this item also viewed」とか「よく一緒に購入されている商品」なんていう風に表示される機能もこれに近い。
だがAmazonの場合、例えばモバイルバッテリーを購入した際に、そこにUSBの充電用のケーブルをオススメしてくる、といったようにその商品に付帯した関連グッズをサジェストしてくれるのは大変便利だ。届いてからケーブルが足りないことに気付いて追加で注文、となれば不便極まりない。これは「良いオススメ」だ。
僕が問題にしているのは主に映画などを検索したり、購入、あるいは鑑賞する際に出てくる「これが好きならこっちもどう?」という機能のことだ。
あるひとつの映画が面白かった時に、その作品が好きな人が他に気に入りそうな作品をリストアップしてくれるのは一見便利そうに思える。だが問題はその中身だろう。
例えばあなたがミステリー映画の名作「シックス・センス」を動画の見放題サービスなどで鑑賞したとする。
ブルース・ウィリス演じる精神科医マルコムはとあることがきっかけで少年コールと出会い、その心を解きほぐしてゆくうちに彼が自身の持つ第六感により死者の姿が見えてしまうという悩みに怯えていることを知る。カウンセリングを進めていくうちにマルコム自身の結婚生活における悩みなども顕在化し、やがて物語は衝撃の結末を迎える…。
![](https://ramrider.com/wp-content/uploads/2019/10/life-and-movie-cut2_01.jpg)
結末を知っていても2度、3度と観たくなる素晴らしい作品だ。監督のM・ナイト・シャマランはこの作品の評価があまりにも高かったせいか、その後の作品ではあまり評価はされなかったが、ここ数年は自身で資金を調達した低予算ながらも良質な映画を連発し、あらためて人気作家としての地位を確固たるものにした。
そして誰もが驚いた結末のあと、エンドクレジットを堪能して映画を閉じると画面には「you might also like…」の文字と共にオススメの映画タイトルが並ぶ。それはどれも「衝撃のラスト」を謳うミステリーやサスペンス物ばかりだ。中には「これって“実はXXはXXだった”って部分までシックス・センスと一緒じゃないっけ?」という作品まで入っている。
ネットに転がっている「どんでん返しがすごい映画ベスト20!」的なランキングにも通じることだが、「よし、シックス・センス、確かに面白かったし、おれにぴったりだというのならこれも観てやろう」と片っ端から「あなたを待ち受けるラスト10分の衝撃!!!」作品を立て続けに観たところで、衝撃どころか、結末を見届ける度に心が徐々に死んでいくだけだ。
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僕自身、オンラインで済ませることができるものはできるだけオンラインで、という性格だし、フィジカルにはあまり拘らず、データやキャッシュレスが社会でもっと促進されてほしい、と普段から思っている。だがこんな僕でも意外とTSUTAYAやGEOなどの店舗で映画を借りるのは今でも大好きで、毎週劇場で見逃した新作や、配信にラインナップされない旧作を求めて定期的にお店に足を運んでいる。Blu-rayなら画質、音質共にネット配信とは比べ物にならないクオリティで楽しめる点もお気に入りだ。お笑いの単独ライブが充実しているのもいい。
実際のショップ、特に大型店舗だとネットとはまた違った潮流のようなものが感じ取れて良い。具体的には韓流ドラマの占める面積が多いな、とか、あれ、最近は音楽ライブもレンタルの対象なんだ、とか。アダルトそのものを撤去する店も増えてきた。
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店舗で面白いのは作品との偶然の出会いかな、と思う。
例えばシュワちゃんとスタローン、2大アクションスターの夢の共演映画「大脱出」を借りようと手にとった矢先、偶然再会した高校時代の片思いのあの子と昔話に花が咲く。立ち話もなんだから部屋で一緒に映画でもどう?なんて言われてあなたはそのまま「大脱出」を彼女に差し出すだろうか?
思わず後ろ手にビデオをケースに収監し、何食わぬ顔で偶然視界に入った「プラダを着た悪魔」とか「マイ・インターン」あたりを手にレジへ向かうかもしれない。
![](https://ramrider.com/wp-content/uploads/2019/10/life-and-movie-cut2_02.jpg)
そして日和った自分に後悔しながらも彼女の部屋で映画を観始める。
そしたらこれが意外と面白くて「メリル・ストリープ怖い…」「これただのパワハラじゃないの…」なんていいつつ終盤であきらかになる上司の事情や主人公の選択に一喜一憂したり、「インターンてデニーロの方かよ!」「…これが執事萌えというやつか」と自分の中の新たな嗜好に気付かされたり。結局「面白い映画に男も女もないねー」なんて感想に落ち着いたりして。
例え話に若干無理があるのは承知だが、これがネットの配信であれば、大脱走がワンタップですんなりと再生され、終盤のトンデモ設定に愕然、鑑賞後には大脱走2がオススメされ、YouTubeを開けば大脱走3の広告が流れる、という具合だ。もちろん2大スターの共演は楽しめるが(シュワちゃんは続編には出てないけど)、ロマンティック・コメディやお仕事ムービーの素晴らしさ、アン・ハサウェイのキュートさに気付くことはなかったかもしれない。
![](https://ramrider.com/wp-content/uploads/2019/10/life-and-movie-cut2_03.jpg)
ビデオショップや本屋のそういった「個人にカスタマイズされてない商品棚」というのは今や店舗が持つ強みのひとつだと思う。見放題やダウンロード配信サービスのAI、ビッグデータによる「オススメ」は見方を変えれば「選ばされている」状態にも似ている。そしてタイミングによる思わぬ「エラー」も起きづらい。
そんなわけで僕はネットで今一番いけてない機能は「you might also like」だと思っている。そしてこのことに気付いているECサイトやコンテンツプロバイダはまだ少ない。
今の時代に本当に必要な機能は、過去の傾向を分析した「like」ではなく
You may not like it, but what about this?
(もしかしたら好きじゃないかもだけど、こんなのもどう?)
だと思うのだ。