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生活と映画 cut.5 一足おそい2019年映画ランキング

生活と映画

当コラムはURBAN RESEARCH MEDIAにて掲載された内容です。


書きたいテーマはいろいろあるのだけど、せっかく連載の映画が始まったことだしひとまず年末年始の風物詩ということで映画ランキング的なものを、とメモしておいたらあっという間に1月が終わってしまった。というわけでRAM RIDERが2019年に観た映画ベスト10を発表します。ランキングといいつつ特に順位はつけませんが、後半に行くに従って思い入れが強くなってしまそうな気はします。とりあえずいってみよう。

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・トイ・ストーリー4

トイ・ストーリー4
https://www.disney.co.jp/movie/toy4.html

あらすじ
新たな持ち主の少女ボニーをまるで父親のように見守るウッディ。だが彼女のお気に入りは手作りおもちゃのフォーキーだった。自らをおもちゃではなくゴミと認識し、すぐに逃げ出すフォーキーを追いかけた先の遊園地で起こる大冒険。

あまりにも美しく、「The 円環構造」なラストシーンで完結した「トイ・ストーリー3」のさらに続編。それだけに「なぜ作るのか?」「そもそも続編は必要なのか?」をしっかり考え抜いてつくられた一作。フォーキーの存在とウッディの最後の選択はトイ・ストーリーの世界設定の根幹をなす「おもちゃとは何か」という問題提起になっていて、それが「人間の尊厳とは」「親という立場からの開放」にそのまま繋がっている。それを表層的にはいつものドタバタコメディに仕上げているのは流石。すべてのフランチャイズ(というか人気シリーズ物)はとにかく主人公たちをもう楽にさせてあげてほしい。何度宇宙の危機を救わせる気なんだ、という物語が多すぎる。本作はそこへの解答にもなっている。

・バイス

バイス
https://www.vap.co.jp/vice/

あらすじ
ワイオミングの田舎の電気工から副大統領まで上り詰めたチェイニーとブッシュ政権の裏側を描いた社会派エンターテイメント。

「マネー・ショート」に続くアダム・マッケイの政治経済実録物。「バイス」とは主席に次ぐ「副~」という意味だが本作ではブッシュ政権時代の副大統領を務めたディック・チェイニーのこと。マイケル・ムーアを始めブッシュJr.を題材にした映画は多いが、影の権力者ともいえるディック・チェイニーを扱った映画は観たことがなかったので非常に新鮮だった。スコセッシが撮ったと言われたら信じちゃいそうなテンポ感、映像のサンプリング、音楽の使い方、すべてが好みだった。それでいて無口のダークヒーローという切り口が新しい。日本でいうと小渕、森内閣あたりの野中広務が主人公の映画があったら?観たいでしょう(僕だけか)。パウエルもライスも激似だし何よりブッシュの喋り方バカすぎるし、途中て出でくる諸々の悪ふざけが権力者を舐めきっていて最高!という感じがしたけど、まあ、笑ってる場合じゃないよね、という気も。同じ時期に観た邦画「新聞記者」は作劇が時代劇っぽく、内容はいいのになんだかな、と思ったので余計好印象だったのかも。

・カイジ 動物世界

カイジ 動物世界
https://www.amg-films.jp/product/1230

あらすじ
自堕落な生活をしていた主人公カイジは友人に騙され多額の借金を負う。借金一括返済のため、謎のギャンブル船「エスポワール号」に乗り込むと、そこでは異様なゲームが繰り広げられていた。

先日9年ぶりの新作が公開された「カイジ」実写版。こちらは去年の1月に国内公開となった中国版。物語初期のいわばラスボス利根川をマイケル・ダグラスが演じているあたり勢いのある中国資本という感じ。設定を大胆に変更し、アクション要素も大幅追加などアレンジが効いていながら、過去のどの派生作品よりも「限定ジャンケン」のゲーム性を緻密に再現していて素晴らしかった。謎のピエロ要素もある意味「当たり年」ってことで許容範囲。CGも新鮮です。原作ファンにもお薦めできる一作。

・アメリカンアニマル

アメリカンアニマル
http://www.phantom-film.com/americananimals/dvd/index.html

あらすじ
退屈な大学生活を送るウォーレンとスペンサーは、大学の図書館に時価1200万ドルの画集「アメリカの鳥類」が存在することを知る。仲間を集めてこれを盗み出そうと計画するが、、、。

実話をベースにした学生たちによる高価な美術本(ほぼ絵画)強奪映画。「オーシャンズ」シリーズのような華麗なケイパー物や、「ラスベガスをぶっつぶせ」のような秀才集団によるクライムムービーを期待してみたら、どっちかっていうと「ファーゴ」タイプの「実際にはそんなうまくいかないよね」系超リアル志向の実録犯罪映画だった。それもそのはず、回想シーンと独白シーンの顔がずいぶん似てないなと思ったら、後者の独白パートは本人が出演している。今の自分ではない特別な何かになりたい、という感情は誰でも持ち合わせているし、それを物語にしたものは数あれど、犯罪でもって青春ムービーとしてみせ、しかも成功しているというのは珍しい。なぜ成功かというと、それは物語の中できっちり代償を払っているから。どんでん返しとまでは言えないちょっとした驚きが物語の最後に隠れているのも上品でよかった。

・ジョーカー

ジョーカー
http://wwws.warnerbros.co.jp/jokermovie/

あらすじ
道化師を生業としていた不器用な男が、通りでひどい目にあったり、福祉を打ち切られたりしていくうちに少しづつその目に狂気を宿し、バットマン史上最狂と言われるヴィラン「ジョーカー」へと生まれ変わっていく過程を描く。

みんな大好きジョーカーも無事ランクイン。主人公アーサー・フレックが誰もが知るヴィラン「ジョーカー」というゴールに到達するまでを描くそのスピード感(ゆったりだけど止まらず進んで行く感じ)や、バットマンという世界観の匂わせ方のバランスが良く、かつ映像も音楽も上品でなんともウェルメイドな印象の映画だった。DCはマーベルとは対照的にDCユニバースのそれぞれの世界観を無理に繋げないことを発表した。これはほんとに正解だと思う。ワンダーウーマンもシャザム!も今回のジョーカーもその方が作品単体として生き生きしてていい。福祉が抜け落ちた社会がどうなるかってとこでは「us」「万引き家族」そして目下大ヒット中の韓国映画「パラサイト」にも通じるところ。

「みんながお互いを思いやらないとジョーカーを生み出しちゃうよ」
という感じ。でも、鑑賞後だいぶ時間がたって少し冷静になり、「この物語すら彼のたちの悪い冗談だったのかも」という気がしてきました。

・ブラック・クランズマン

ブラック・クランズマン
https://www.nbcuni.co.jp/movie/sp/bkm-movie/

あらすじ
1979年、コロラド州初の黒人刑事として採用されたロンは、同僚の白人署員達からも冷遇されていた。そんなある日新聞広告に掲載されていた過激な白人至上主義団体KKKに潜入捜査を試みるが…。

70年代末期のアメリカ、コロラド州を舞台に史上初の黒人警察官と白人署員たちによる白人至上主義団体KKKへの潜入捜査をコミカルに描く刑事モノ。監督はスパイク・リーだが、彼が持つテーマ性とエンターテイメント要素がここまでしっかり絡み合った作品は今までなかったと思う。観ている間、映画の結末が気にならない、ずっと観てられるって意味ではタランティーノとかマーティン・スコセッシの作品に近い。内容は重いしやるせなくなるけど黒人問題を取り上げてる作品定番の鬱エンドじゃないのが何より素晴らしい。

重いテーマなのに痛快!超おすすめ!

だけで終わらせないラスト。やっぱり重い。観終わった時に「あー今年のベスト1かも」と思った一作。

・アベンジャーズ/エンドゲーム

アベンジャーズ/エンドゲーム
https://marvel.disney.co.jp/movie/avengers-endgame.html

あらすじ
なんやかんやあって、最強の敵サノスと再戦。

ご存知MCUの大メインクライマックス。アイアンマンから(日本ではインクレディブル・ハルクから)始まった10年に渡る物語を見事にまとめあげた。当然単体の評価ではなく、この10年楽しませてくれた功労賞な何かを授与したい気持ち。直後の「スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム 」まででフェイズ3完結となったが、さすがのMCU疲れ、みたいなことにならないか、今後に多少の不安が残る。この件については本連載「cut.1 / 終わらない物語について。」をご参照ください。

・ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-

ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-
https://www.netflix.com/jp/title/80994011?source=35

あらすじ
観覧船の事故に巻き込まれ夫を失った未亡人は、受け取れるはずの保険金が受け取れないことを知り激昂。調べていくと、その先にパナマにあるペーパーカンパニーと二人の弁護士の存在を突き止める。

スティーヴン・ソダーバーグ監督がパナマ文書、つまり日本も含む世界中の富裕層が利用している脱税手法「タックスヘイブン」のからくりについて紐解く。主演のメリル・ストリープがとにかく素晴らしいのだが、話し方や人への伝え方がテンパった時の自分の母親にそっくりで(とにかく話の概要を伝えるのが下手、同じことを繰り返す、感情だけを伝える)、情報を持たざるものが真実に気づき始めて憤る様子を丁寧に演じてた。俳優に年齢的なピークはない、とあらためて感じた。個人的には主演女優賞をあげたいです。

・アイリッシュマン

アイリッシュマン
https://www.netflix.com/jp/title/80175798

あらすじ
あらゆる汚れ仕事を請け負った伝説のマフィア、フランク・シーランを中心に、実際に起きた事件ジミー・ホッファ失踪事件の真実を描く。

マーティン・スコセッシ監督堂々の新作はNetflixで。アリバイ作りとして渋谷でも短期上映していたが劇場で観なかったことが悔やまれる一本。ここまで読んだ方はおわかりだと思いますが僕はスコセッシという監督が大好きで、この人の映画なら何時間でも何本でも観れる、というタイプなので本作を万人にお薦めできるかはわかりません。米トラック運転組合のリーダー、ジミー・ホッファの失踪、殺人を晩年に告白したフランク・シーランの半生を描いた物語。濃厚なキャスティングと演技、音楽で、とにかく画面の中がスコセッシで充満している。それだけでも映画ファンとしてはたまらない。高齢化する極道を描いた「アウトレイジ 最終章」でも描かれなかったマフィアやギャングの人生の「その先」を観せてくれたスコセッシ監督。後何本撮ってくれるだろうか。

・ターミネーター ニュー・フェイト

ターミネーター ニュー・フェイト
http://www.foxmovies-jp.com/terminator/

あらすじ
審判の日が起こるのを回避した直後、サラとジョンの前に再びターミネーターが現れ、親子はあらたな悲劇に襲われる。謎の能力を持つ女性とあどけない少女に出会ったサラは新たな敵に戦いを挑む。

僕が個人的に生涯のベストムービーにあげている「T2」以来ジェームズキャメロンが復帰。正式続編、といいつつT3、T4、新起動からのオマージュが散見され、「だったらそんな言い方するなよ」とは思った。しかしいざ観てみると同じく復帰したリンダ・ハミルトン演じるサラ・コナーの素晴らしいこと!そして全ての作品に通じる円環構造を忠実になぞりつつ、確実に現代にフィットさせるために変更された「ある設定」が本当に素晴らしい。T3以降これまでの続編は全て「サラが死んでジョンが生き残る」という設定のもと話が始まっていたが、今回はサラが生き残った世界。そして観客は本作を観ている途中でターミネーターとはサラ・コナーの物語であったということに気づく。続編が出るたびに色々と言われながらも出演し続けているシュワちゃんも素晴らしい。ターミネーターギャグみたいなセルフパロディを極力排除してみんなでシリアスに物語作ってる感じが本当によかった。敵もカッコいい。他人の評価は知らん!満点です!(興奮)


ランキングにしない、といいつつ、書き進めるに従って筆圧の高さを感じていただけたでしょうか。まあ、そういうことでございます。2020年に入ってから観た分だと「パラサイト 半地下の家族」は年末までベスト10に残ってそうな予感がします。逆このあと一本も観なくても絶対に入らなそうなのは「スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け」でしょうか。ここのところリリースが続いて更新が遅くなりましたが書きたいことはまだまだたくさんあります。今年も「生活と映画」よろしくおねがいします。