2023年度も一週間を切った3月24日、2歳上の従兄弟が亡くなったという連絡が舞い込んだ。千葉にある取引先の敷地内でひとりで亡くなっていた、とのこと。あまりの突然のことに動揺していたせいか一報を聞いた瞬間に頭に浮かんでいたのは彼の兄の顔だった。話を聞いているうちに「あ、そっちは生きてて、弟の方か」などと頭の中でひとり訂正しつつ、次にやるべきことを考える。まだ47歳。
うちの母は台湾生まれの4人姉妹で、その子供世代は男ばかり計7人、上から下まできっちり2歳づつ離れている。それぞれが台湾、日本、アメリカに住み、国籍も仕事もバラバラだがリレーションは強く、その中の上から2人目が帰らぬ人となった。前日にちょっとした用事で交わした何気ないやりとり(それこっち置いといて、みたいな本当に事務的な、目も合わせない内容)が最期の会話になってしまった。
彼とは物心ついたときからの家族で、自分が台湾に住んでいた小学生の頃も一緒だったし、少し大人になって向こうが日本に留学してきた際もひとつ屋根の下で暮らしていた。一人っ子で母子家庭の自分にとっては本当の兄弟のような存在だった(正直いうと兄というよりは弟みたいなかんじだった)。彼が結婚してからは彼の奥さんや娘たちも自分の家族として接していたので、喪失感は大きい。
とはいえ感傷に浸る余裕もなく、親族と連携して搬入先の病院や警察とコミュニケーションをとる。事件性はないと確信していたけど、なにせ病院や自宅、あるいは目撃者のいる事故死ではないため捜査が必要、とのことで、家族を含めたくさんの関係者が取り調べを受け、遺体も解剖までされることになってしまった。
そこでふと気付く。これだけ長い付き合いの彼のことを自分は本当に何ひとつ知らない。家族以外の交友関係、仕事付き合い、将来どんな夢をもっていたのか、彼のスマホの中にどんな写真が眠っているのか。
遺体が家族のもとに戻るまで実に10日間もの時間を要した。
その間、親族それぞれが持ち寄った話を元に少しづつ情報を整理し、僕が葬儀屋との段取りを、ほかの従兄弟たちが友人や取引先への連絡を進める。すべては書けないけれど、いなくなってしまった彼が少しづつ形を取り戻していくことに安堵する気持ちと、その実人生が自分の想像とはまた少し違った姿だったことに対する苛立ちや寂しさがあった。
家族の協力もあり無事お通夜と告別式、セレモニーを行うことができた。葬儀の最中はまだ10代の彼の子供たちのケアしか考えてなくて気を張っていたけど、最後の最後、棺の中に花や天国へ送るためのお札(おさつ、おふだ)を並べていたらどうにも泣けてしょうがなかった。それでもやっぱり、わからない。
「あなたの人生には秘密しかない」
今回のタイトルは彼に対してのメッセージでも、僕が誰かに言われた言葉でもなく、今これを読んでいるあなたに向けた僕からの言葉です。あなたのことは、本当にあなたにしかわからない。友人や恋人はもちろん、家族すら実はあなたのことを何も知らない。
それは僕たちがあまりにも自分のことを他人に話さないから、あるいはそんなことをしなくてもコミュニケーションをとるためのトピックが溢れていて、あるいはエモートやスタンプや日常の用事だけでも十分に接点が保たれているから。
でもやっぱり話さないと、残さないと、何も伝わらない。
だからといっていきなり「遺言を書こうぜ」とかそういうことでもなく、まず自分自身が心の言葉に耳を傾けることから始めたほうがいいのかも、などということを思ったりした、そんな10日間でした。
とりあえず残された家族のことはなんとかするから、安らかにねむれ~。