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金持ち喧嘩せず。

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2月の中旬はササダンゴさんと行ったワンフェス(幕張メッセ)、401スタッフと参加したRHYMESTERの武道館、配信で観たオードリーの東京ドームなど、立て続けに大きな会場のイベントを観たり体感したりしました。いろんなことを考えた1週間だったけど、その辺はすぐ言葉にはせずにもう少し自分の中で反芻してなにかに活かそうと思ってます。なので今日は全然関係のない「諺(ことわざ)」についての話。


「過ぎたるは猶及ばざるが如し」

という諺があります。「何事も行き過ぎれば足りないことと変わらない」という意味です。物事はほどよいことが大切ということを伝えています。

「言うは易く行うは難し」     

読んで字の如く、言うのは簡単だけどいざ実行するのは大変、みたいな意味の諺です。

「今日考えて明日語れ」

これは西欧故事の「Think today and speak tomorrow」からきており、思ったことをすぐ口にするな、という教訓かなと僕は捉えています。つまりは

「口は災いのもと」

みたいなもんか。こうして考えると故事や諺には「発言」に関するものが結構多く、今も昔もコミュニケーションに関わる根本的な部分はそう変わらないのかもしれません。なのでSNSにそのまま応用が効く諺も多いのかも。

でも中には時代が流れて価値観が変わると古くなっていくものもあります。例えば

「石の上にも三年」

「何事も忍耐強く辛抱すれば結果につながる」あるいは「まずは3年じっくりと一つのことに取り組みなさい」という意味ですが、自分の適正に合う場所と出会うにはむしろ変化を恐れずいろんなことにチャレンジするほうが今の時代においては勇敢で忍耐力がいることなのかも。僕自身こんな風に考えて耐えた環境から抜け出した後で「あの苦労は一体なんだったんだろう」と思ったことがあります。とはいえもう少しあとから振り返ってみたときに「やっぱりあれも必要な経験だったな」とも感じるので、どちらが正しいということでもないような気も。

「女房と鍋釜は古いほど良い」

これはもう意味を考える以前に口に出すのもはばかられますね。

そんな中改めて「すげえな」と思った諺があります。それは

「金持ち喧嘩せず」

です。お金持ちはあらゆる損得勘定をし、リスクがあると判断した場合は喧嘩をしない、というような意味です。SNSで言い争っている人をみたり、あるいは自分が何か反論したくなったとき、まずこの言葉が頭に浮かびます。今自分が選ぼうとしている言葉でこの件とは無関係な誰かを傷つけてしまわないか、あるいは知らないうちに仕事を逃してないか、など考えているだけでちょっとしたブレーキになります。SNSはなんだかんだ開かれた(開かれすぎた)ツールなので、ちょっと年の離れた若手DJ Aくんを愛情を込めて皮肉ったつもりの発言が、大御所先輩DJのBさんのこめかみにぶっ刺さってしまう、というような事故が起こりがちです。というか日々起こっています。

そういった誤射、フレンドリーファイヤーを回避するのにこんな直接的で短く、わかりやすい言葉はなかなかありません。

ですが、この諺が現代においてさらに秀逸で奥の深い言葉だと感じるのは、それが人生におけるメリット、デメリット的な教訓に収まっていないことです。あえて注目したいのは「金持ち」の部分。例えばここが「賢者」や「弘法」「君主」など主語を別の優秀な人を指す主語に変えても成立するはずなのに、あえて「金持ち」にしたことでそこに「損得に敏感で利に聡い」というようなニュアンスが生まれます。

時代が変わり、SNSで様々な出来事が可視化した今、当時は人生の向かうべき指針のひとつだった「金持ち」が現代では「今の立場を守りたい人」「資本家」、あるいは「既得権益」「権力者側」というような意味にもとれます。「金持ち喧嘩せず」は生活を向上させるための教訓であると同時に「声を上げないことは権力者側に都合の良い振る舞い」とも読めるような気がします。

こうなると次の段階として「常に議論に参加しないといけないのか?」という問いかけが内面に生まれます。社会の問題にみてみぬふりをして良いのか?弱者に寄り添うべきではないのか?そのとき自分はどこまで事実を知る立場にあるのか?そして同時にやはり自分の生活や自分自身も守って当然ではないのか、など。この葛藤自体があるべき姿なのかなと最近は思っています。SNSによって怒りが習慣化してしまった自分たちがその負の力に頼らずに話し合ったり、議論を積み上げられる方法を探せたらな、とか。それが難しいとしてもせめて正確に伝える、受け取る、そこに書いてないことを読み取らない、ということだけは心がけたいですね。

すごくどうでもいいことですがこの文章の最後は前半であげた諺のどれかをスっと置いて〆ようと思ってたのですがなんかそれもダサいなと急に思ったのでやめました。あとこの文章については特にSNSなどで書いたよ、という報告などもしないつもりです。ここまで読んでくれた5人ぐらいの人、おつかれさまでした。