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ここは華麗な玉手箱

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仕事や私生活でいろいろなことが重なった去年の秋頃、突然「あ~全部放り出してどっか行く!今すぐ行く!車で行く!」となり、明け方すべての連絡を無視して着の身着のまま高速を飛ばす、ということがあった。とりあえず仕事場の近くから首都高に乗って気が済んだら帰ろうと思っていたのだけど、「ああそうだ、中学生のときからずっと行きたい場所があった。」と思い出し、そのまま東北自動車道への分岐を経て栃木で降りた。

第4回全日本国民的美少女コンテスト王者、ドラマ「いちご白書」主演(辺見えみりとSUPER MONKEY'S安室奈美恵のドラマ初出演作)でもおなじみ、小田茜がCMに起用された東武ワールドスクウェアだ。世界の歴史を精巧なミニチュアで物語るおとぎの国、ここは不思議な玉手箱。当時14歳だった小田茜は1978年生まれの僕たちにとって初の同世代、同学年のアイドルであり、彼女は「お前たちはもう子供ではない」と社会から太鼓判(もしくは烙印)を押されたような存在だった(おなじく1978年生まれの間下このみは子役なのでまた別枠)。

いや、そういう小田茜論とか岩崎恭子論とかを書きたいんじゃなくて、東武ワールドスクウェア、もうストレートにずっと行ってみたかった。SNSで僕の投稿を眺めている人はお気付きだと思うが、とにかく「極力ディフォルメを排除した上で小さく精巧に再現されたもの」が大好きで、ここはもうその親玉みたいな観光地だ。CMソングの刷り込みもあり、とにかく素晴らしい場所、そこに行けばどんな夢も叶うという愛の国、どうしたら行けるのだろう(答えは東北自動車道宇都宮ICから20分)、と上昇しきった期待値を胸に国道へ降りると、平日の早朝ということもあり思ったよりはやく到着してしまった。食に興味のない僕はセブンイレブンの駐車場で「たんぱく質が摂れるチキン&エッグ(まじで魔法としか思えない食べ物)」とおそらくイヌリンかなにかの難消化性デキストリンをまぶしてあるだけで特保を名乗る図々しい炭酸水を口にして少し仮眠し、開園を待ったのだ。

してその感想は、というと「素晴らしい」の一言に尽きる。精密に再現された世界中の観光地とそこを行き交う人々、建造物や歴史の解説、スカイツリーや東京ドームなど「地元」から始まりアメリカ、中東、ヨーロッパ、アジア、と世界を旅して京都清水寺に帰ってくる構成(反対側から巡るコースもある)。

何より感動したのはこのコロナ禍にあって行き届いたメンテナンスだ。平日の開園直後とあって客は僕ひとり、ときおりスタッフの方が補修している場面にも出会った。冷静に考えるとここは吹きさらしの屋外。紫外線も当たれば雨も降る。こんな環境に置かれたミニチュアの建造物をいつでも鑑賞に耐える状態に保存する、というのはこれ奥さんね、奇跡ですよ奇跡。

当日のチケットであれば再入場もできる、ということで一旦退園して温泉などに浸かり、夕方ライトアップが始まる頃合いを見計らって再入園し、まっくらになるまで堪能して帰った。帰りしなiPhoneをみたら誰からも連絡がきてなくて、これ以上何を望もうか、という本当に良い1日だった。

今年の主要国首脳会議は東武ワールドスクウェアでやるといいだろう。各国のトップが園内を自由に歩き、それぞれがスマホで記念写真を撮ったり解説文を通訳に読み上げさせ、十分に世界に想いを馳せたあとで平和に向けた話し合いをしてほしいと思います。


みなさんも是非行くとよいでしょう。世界中わりといろんな国に行きましたが、退園後は本当に旅の後と似たような感覚になり、手軽に脳をバグらせることができます。