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忘れ得ぬ日の話① ~洗車おじさん編~

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僕がときどき出演しているTBSラジオ「アフター6ジャンクション(現在は2)」は生放送で内容も充実しているため、基本的に放送中は出入りする僕を含め関係者全員がバタバタしているのですが、先日の出演では放送中にも関わらずたまたま番組の編成の関係で宇多丸さんとブースの外でゆっくり話せる機会がありました。同じ日に出演だったNONA REEVESの郷太さんも同席で次にやりたい企画の話とかこれから始まるアトロク2へ向けてどんな風に変わるか、など楽しく話していたのですが、この3人が揃うと必ず思い出す1日があります。


それは今からもう10年以上前、TBSラジオ主催で呼ばれた横浜みなとみらいでのイベント。大規模だったこともあり、リハーサルから本番まで3時間ほど空きがありました。その空き時間でみなとみらいの街を郷太さんと散策し、少し遅れて合流した宇多丸さんと「本番までまだ時間もあるし、一杯ぐらいならいいだろう」と海のみえるお店でビールを飲んだのです。そのときののんびりした空気と、完璧な天気、ビールの味が相まって、強く僕の記憶に残る「忘れ得ない時間」になりました。

そしてそれは僕だけではなかったらしく、この3人で集まるとなぜかその日の話が出るのです(お二人とはそれ以外のシチュエーションで何度もお会いしてるので本当に不思議です)。ものすごく大きな出来事があったわけでもないのに色々な要因が重なって強く印象に残る日や瞬間てあるよな~、という話。ちなみに僕が人生で一番記憶に残っている瞬間は10歳の11月のある一瞬なのですが、それは話が長くなるのでまた今度書きます。

ここまでは今日書く内容のプロローグで、最近また「そういう一日」が立て続けにあったので記録がてらに残そう、というのが今日の本題です。

ライブのメンバーのアライカヲルくんは車が大好きで、特に自分の愛車を美しくピカピカに保つことに命を賭けて生きているタイプの男です。基本は毎週、どんなに忙しくても2週に一度は洗車場へ行き、自らの手で愛車を磨き上げるのです。一方の僕は「車は道具、あるいは移動する部屋」ぐらいに思っており、整備やエンジンの状態などはともかく、見た目はあまり気にしないタイプです。それにしてもしばらく洗車してないな~とずっと気になっていたのと、以前時間がないときに手抜きでコーティング剤の入ったシートで拭いたら逆に汚れが広がってしまい取れなくなってしまったので、洗車マスターアライにお願いしてコイン洗車場を初体験することになりました。


土曜日の早朝に指定の場所へ行くと従業員らしき人が誘導していたのでそれに従います。しかしここはコイン洗車場。その従業員らしき人が自前の"繋ぎ"を着たアライくんだと気付くのに時間はかかりませんでした。アライくんはすでにひと仕事終えた顔で、日が出る前に自身の愛車の洗車を開始し磨き終わったとのこと。僕の車をぐるりと一周見回して最適な洗剤と洗車道具を選び抜いてトランクから持ち出します。そこからはアライくんのペースです。一度目の放水(?)のあと、師匠の指示で手洗い。ちょっとやそっとでは落ちなかった汚れが言われるがまま拭き取ると一瞬で落ちていく様は圧巻でした。

基本の拭き取りが終わると今度はシャンプー。まるで泡パのような勢いで出る洗剤で車をくるみ、また高圧の水ですすぎます(撮り忘れた)。

しかしここからが忙しい。天気のいい日に濡れたまま放置すると「乾き跡」が残ってしまうため、またきれいに乾拭きしないといけません。もくもくと作業する二人。終わってみるとボディもフロントガラスも青空が抜けるほどきれいに。

何も考えず手ぶらで行ってしまった僕は道具から洗剤、専用のプリペイドカードで支払う洗車代まですべてアライくん任せにしてしまいました。実費はもちろん、当然一緒に洗車してくれた本人に対するお礼もあるため「いくらか払うよ」と言うのですが、「いい、いい、いい!」となかなか受け取ってくれません。本人曰く、「人の車をあれこれ考えながら洗うのはめちゃめちゃ楽しかった」そうで、それを言う彼の笑顔は僕の車のボンネットと同じぐらい輝いていました。僕自身、なぜかこの日の印象が強く、今も車をみるたびに思い出します。もしかしたら天気や穏やかな時間、いつもライブの話しかしないアライくんとの雑談などがあいまって「忘れ得ない時間」枠に入ったのかもしれません。この場でのお礼は諦めて次に回すことにした僕はガソリンスタンドから見送る店員さんのようなアライくんをバックミラー越しに眺め、すっかり日の昇った秋の国道を走って家路につくのでした。

アライくんありがとう!!!また車の汚れが気になったら行きましょう。