2015/9/3(Thu)
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映画メモ ソロモンの偽証

映画メモを個人的に付けているのですが文章を書く修練としてblogでもときどき公開することにしました。新作、旧作、映画館での鑑賞、DVDなどバラバラですが基本的に旧作、準新作が多めかもしれません。未鑑賞の方でも大丈夫なネタバレなしパートと鑑賞した人向けのネタバレパートに分けてます。自分自身の思考メモと気分転換を兼ねていますので点数はつけません。映画タイトルをクリックするとWikipediaに飛ぶようになってますが、作品によってはあらすじ部分に結末まで書かれている場合もあるのでご注意ください。僕が書く方のあらすじは手抜きをしているのもありますが僕が映画を観るときに「最低限それぐらいしか知りたくない」程度の情報にまとめています。また作品に合わせ原作を読むことも多いですが基本それらの比較はしません。第一回は2015年の日本映画「ソロモンの偽証」です。それではスタートだよ~。

ソロモンの偽証 宣伝ポスター

ソロモンの偽証 

あらすじ
1990年12月25日の朝、ある中学校で前日から降り積もった雪の中から少年の遺体が見つかる。発見者は同じ学校に通う二人の生徒。警察では自殺と断定されるが、関係者に次々と「死因は自殺ではなくいじめによる転落死である」という趣旨の怪文書が届きはじめ、事態は生徒、教師、保護者、警察、マスコミを巻き込んだ事件へと発展する。

前編と後編で評価がかわる作品
最近邦画で増えている前後編上映。長尺ということで長編小説や連載マンガなど原作の要素をできるだけ省略せずに描ける反面、上映料金や後編上映までの興味の持続など鑑賞する側のハードルも高くなる。この作品は少年の遺体発覚を引き金に第二の事件が起き、それらを受けて生徒たちが解明のために自主的に立ち上がる「前編・事件」と、生徒たちが大人たちを説得し体育館を使って真犯人を追求する「後編・裁判」に分かれており、両作足して267分の大長編。原作との比較はしない、と書いたけど宮部みゆきの小説自体が700P超の単行本が3冊という大変長い作品なのでこれでもいろいろ要素が削られている。特に前編上映時の評価が非常に高く、気になってた作品。自宅で鑑賞しました。

演技、空気感、謎をちりばめる過程などどれも素晴らしい前編・事件
物語の主人公をはじめとする生徒たちのキャストは大規模なオーディションで選ばれ、演技経験のない新人やエキストラなど無名の役者を中心に集められたそうで、まずこの子たちの演技がなかなか良かった。映画に出てくる登場人物は「演技さえ上手ければ、無名なほどいい」と僕は思っているので、こういう「新顔中心の若いメインキャストを小日向文世などベテラン俳優が脇を固める」といった配役はすごく好みだ。素人同然のはずの生徒たちの演技がリアルに伝わってくるのはきっと監督の粘り強い演技指導があったんだろうな、と想像した。特に主演で役名をそのまま芸名にしたという藤野涼子の瑞々しい存在感と自然な演技はよかった。きっと「セーラー服と機関銃」の薬師丸ひろ子や「時をかける少女」の原田知世が初めてスクリーンに映ったときもこんな感じだったんじゃないかと思う。当時子供だったからこれも想像するしかないんだけど。

前編は少年の死因が飛び降り自殺だったのか、あるいは強制された転落死だったのか、だとすればその犯人は?目撃者は?と物語の展開と共に登場人物が増え、それらの描写がキャラクターの過不足ない説明にもなっていてとてもテンポがよい。自殺した少年、それを発見した主人公の少女、事実を受け止めきれない担任、事件で動揺する生徒たちを心配する校長、校長と対照的に学校の体裁を気にする他クラスの担任、怪文書とそれを投函したとおぼしき目撃者、容疑者となる(警察は自殺と断定しているので正確には容疑者ではないが)いじめっ子、事故を捜査している刑事、行き過ぎた取材を行うマスコミ、などなど。とにかく前編は観ていて名作の予感しかしなかった。原作ファンにあまり評判のよくないミステリ映画が多い中、上映時に話題になったのも頷ける。原作を徹底的に改変して別のエンディングを用意し、裁判編をカットしたらもっとすごい作品になったんじゃないかとさえ思う出来。劇場で鑑賞した人では前編終了後に上映された後編の予告編をもってこの作品のピークとする人もいたようです。

以下は後編と作品全体の感想で事件の真相などネタバレを含みます。


推進力を失い失速する後編・裁判
サスペンスとしても学園モノとしてもとても楽しめた前編に引き続き後編を鑑賞。映画館で観た人はさぞかし後編が待ち遠しかっただろうな、と想像しながら再生ボタンを押した。後編では事件をきっかけに変化していく人間模様や複数の家庭が崩壊していく様子が序盤に描かれた後、映画の大半を占める90分に及ぶ生徒たちによる体育館での学校内裁判へと続く。「大人を巻き込んでこんな裁判が本当にできるのか?」「5日間もかかる内容か?」などのリアリティの部分はひとまず置いておくとして、ここから段々と物語が失速していく。裁判という形式自体が「謎解きのための謎解き」なわけで、結局のところ事実を隠していた登場人物たちがそれぞれ真実を話す、の繰り返しで物語が進むのでどうしても退屈してしまう。とはいえそれぞれの生徒の演技(傍聴人となる他生徒の表情なども綿密に演技指導されていてなかなか良い)はそれなりに緊張感を保っていた。

やがて物語の真相が解明され死因が明らかになるになると事件は一定の解決を迎えるが、前編で登場した人物が次々と脱落していることに気づく。田畑智子の演じる刑事、生徒を応援するあるいは邪魔する教師たち、今よりも過激な1990年当時のマスコミ、など。それぞれが物語からフェードアウトしてしまい「あれ、あの人どうなったの?」という違和感が残る。しかしそれでも他校の生徒である神原の謎も解け、裁判に関わった生徒たちはそれなりの成長や和解などを迎えてハッピーエンド、主人公の女生徒は大人になり教師としてまたこの学校に戻ってくるのでした、めでたしめでたし、と物語は終わる。長時間見守ってきた僕からするとどうしても「え、それでいいの?」という感情が湧いてくるラスト。

作品に致命傷を与えた登場人物の一言と監督の本音
結論からいえば亡くなった少年柏木卓也はやはり自殺だったわけだが、彼の扱いがあまりにもひどい。友人にひどい言葉を投げつけ追い詰めようとした結果、その友人が成長してしまうことでさらに孤独に追い込まれたいじめられっ子の自殺。しかし彼の性格が歪んだ理由や過程がまったく描かれないので「ものすごくイヤなやつだったから死んで当然」ともとれる描写になってしまっている。あまりにも気の毒だ。

この終盤の時点でだいぶ観ている僕のテンションは下がっていたがラストに本作(後編)の評価を決定付けるセリフが待っていた。大人になり教師として再び学校に赴任してきた主人公に対して余貴美子演じる新任の校長が言ったセリフ「あれからこの学校では生徒のいじめも自殺も起きてないんです」。自殺はともかく、「この学校にはいじめがない」を新任の校長に言わせる意図がまったく理解できない。監督はいじめの本質をまったく理解してないんじゃないか、とさえ疑ってしまう。いじめは教師のみてないところで起こる。だからこそ事が起きたときに発見できなかった、あるいはあえて事実から目をそらしてしまった担任教師は自分を責めたはずだ。結果的にこの映画は「一人の嫌な生徒の自殺をきっかけにみんなが成長し、学校も以後23年にわたりいじめも自殺もなくなってみんなハッピー(自殺した子以外にも生徒死んだし疑われた無実のいじめっ子は家燃やされておばあちゃん焼死したけど)」というような結論に収まってしまってる。まさにこの校長のいう「人はみたいものしかみなくなる」そのもので、こんな残念な話に4時間以上付き合ってきたのか、と落胆してしまった。

舞台挨拶で監督は「ゲームのように簡単に人を殺してリセットすればよみがえると思っていて子どもたちの(考える)命の重さがおかしくなっている」と発言していた。ここになんとなく監督の本音がここに見え隠れしている気がした。ゲームがリセットしてやりなおせる、ということから命の軽さを導き出すのはあまりにもステレオタイプであり、そもそもゲームが子供のものという前提にも疑問が残る。TVゲームで「人生は失敗しても何度でもやり直しがきく」とか「諦めずに何度もトライすればいつか乗り越えられる」なんてことを学ぶ人だっているはずだ。この「最近の子どもたちはゲームの中で人を殺してリセットでやりなおすような遊びをしているから命を軽く考えいる」という監督の考えをそのまま裏返しにして導き出されたのが「一人の少年の死をみんなが真剣に考えた結果、学校からいじめも自殺もなくなった」であり、それがこの映画の結論に繋がってる。うーん。「人はみたいものしかみなくなる」。なるほどなるほど。僕にとってこの映画の後編はあまりにも残念な作品となってしまった。

それでも観る価値はあるか?(ある)
ということで前編の素晴らしさと比較するとあまりにも納得のいかない後編と結末だった本作ですが、それでも観る価値があるか、といえばやはりある。観た人同士で考えたり、話し合う余地は多いし、冒頭にも書いたように子役(といっていいのかわからない微妙な年齢ですが)の演技を引き出した監督の手腕はすごいと思う。演出面でも校歌を歌うシーンなんか歌詞の内容や積極的に歌っている人、歌っていない人で役回りに陰影をつけるところは素晴らしかったし、細かいシーンで印象に残る部分は多々ありました。前編だけまた見返すということがあるかもしれない。

といったところでメモはおわりです。これは僕個人の映画メモなので「オススメです!」とか「駄作です!」とかは特に言いませんので観た人は感想教えてください。